その瞬間。
ーー思いっきり腕を自分の方へと引き抜き……
「あ、」
弾かれた様に地面を強く蹴った。
足には自信があるもんね。
手首を下に振り下ろして、掴まれた腕を離すのは一瞬の助走が必要だから。
思いっきり引き抜けば、するりと外れた。
長袖だったのが幸いだな。
マンションの方へは曲がらずに、取り合えず直線に走る。
曲がる素振りを見せずに、急に曲がればまた直線に。
路地に入り、後ろを振り返れば目で確認出来る位の距離に男が。
もう2回曲がり、振り返るともうその姿は無かった。
はあ、はあ、はあ。
短距離だけじゃないもんね。自信があるのは。
呼吸を整えながら軽く走る様に足を動かす。

