彼は慌ててドアへと駆け、──教卓の前の机にぶつかった。

ガタン、と音を立てた机の片足が、一瞬だけ中に浮く。



「ちょ……嘘でしょ、壱(イチ)」

「ってぇ……。なんでこんなとこに机あんだよ」

「教室だからでしょ」



ぶつけた足を摩る彼を気遣う素振りもせず、私はドアを少しずつ閉めていく。

こんな私に慣れている彼は、ぐちぐちと小言を言いながら教室を出た。



ちらりと見た窓の外は群青色に染まり、まんまるの月が顔を見せていた。



「もう秋だもんねー。日が短くなるわけだ」

「明るくても暗くても、結局この時間まで残ってるんだから、一緒だろ」

「一緒じゃないよ。暗いと危ないじゃん。特に私みたいな美女は」

「美女?どこ?」

「目の前だよ」



いつものような掛け合いをしながら、昇降口を目指す。