とある悪女の物語。













「茉莉?」






突然自分の名前を呼ばれ、慌てて顔を上げた。








「……なに?」







私の名前を呼んだのはサヤカだった。







「なに、じゃなくて。ボーっとしてどうしたの?パン全然食べてないじゃん」








サヤカは手に持っている箸を私に向け、心配そうな顔をしつつも首を傾げた。







……また、やってしまった。







最近上の空になりがちで友達との会話でさえまともに出来ていない。








どうしても回りに回っている黒崎さんの噂について考えてしまうのだ。







「…ううん、何でもない。風邪長引いてちょっとしんどいだけ」








私と黒崎さんとの関係は誰にも言っておらず、ただ私はそう無理やり誤魔化すことしか出来ない。








「ふぅん?まぁユリたちと違って茉莉は黒崎さんのことで落ち込む必要ないしねぇ」








今日は温かいもん食べて早く寝なよ、なんてケラケラ笑っている彼女の言葉にドキリとした。









彼に抱かれていた人は少なくはなかった。








でも私がクラスで落ち着いているグループの子たちが黒崎さんに抱かれようと躍起になっていたから_____。








何があっても言うわけにはいかなかったのだ。










でももう抱かれることがなくなった今、友達だからなんて言葉に押されていう必要もなくなったけど。








晴れない心のまま、顔に笑みを張り付けてパンを齧った。