「……解らない。だって、メイクしたって何も変わらないから」

「そりゃあ、りりのメイクなんてファンデしかしてないからよ。私がちゃ~んと綺麗にしてあげるわ。美容部員の名に何かけて!て、どこの事件簿だよ」


1人でノリツッコミをケタケタ笑いながら、次々に肌に色を重ねていく。

和歌ちゃんはご機嫌に手際よく、頬や瞼にブラシを滑らせる。

柔らかい感触が擽ったい。

それからヘアアレンジもしてもらった。

前髪を真センターで分けて、後ろでゆるめのハーフアップをつくり、結んだ髪を少し緩め、結び目の上に穴を開けると毛束を通した。

頭のトップの髪を少し引き出して、ふんわりエアリー感を整え結び目に白い花が並んだバレッタをつける。

垂らした髪は緩く巻いて完成、のようだ。

視界を遮っていた前髪はワックスで最後に纏められ、隠れるものを失った頬が引き攣るのが解った。

和歌ちゃんはそんな私にお構いなく、確認用にと眼前に鏡を置く。

自分の醜い姿を直視できなくて、俯いた。

ドキドキ鼓動が早鐘をうつ。

息をするのも苦しい。

例の発作の予感に、胸をおさえる。


「りり。私の腕、信じられない?」


それを和歌ちゃんが言うのは卑怯だ。


「さぁ、りり。鏡よ、鏡、鏡さん。世界で一番美しいのはだ~れ?」


子供の頃大好きだった白雪姫の一場面。

お妃様が魔法の鏡に美を尋ねるシーンのセリフで、私に鏡を見るように促す。

すぐ耳の後ろで激しく脈をうつ音がする。

ゆっくり呼吸を繰り返し、恐る恐る自分の姿が映っているだろう鏡を覘き込んで。

―――絶句した。

そこには、唇はぷっくりツヤツヤして魅惑的かと思えば、こぼれそうな程の大きくパッチリとした瞳とピンクのバラの様な血色の良い頬をした楚々とした女性が居たから……。

思わず振り返ったりキョロキョロしてみるけど、この部屋には私と和歌ちゃんしかおらず。

まさか手品の鏡で違う人の顔が映るようになっているとか??

鏡を裏返してみても、この薄さに仕掛けがあるとは思えないし……。

て事は、まさか……、


「……わ、たし……?」

「他に誰がいるのよ」

「何これ!?特殊メイク!?」


和歌ちゃんはお腹を抱えて大笑いした。