秋の気配が徐々に冬へと移り変わり、教室にも暖房がつくようになった。

 寒空をみていたわたしの視界に里実が映る。

「最近、拓馬君と何かあった?」

 頬杖をついた里実がわたしをじっと見る。

 まるで心の中を見透かされたような言葉に心臓が跳ねた。

「何でもないよ」

 そうとっさに答えた。

 彼女は黒い瞳でわたしを五秒程見つめ、目を逸らした。

「なら良いけど、何か悩み事があれば聞くよ」

「ありがとう」

 わたしはお礼だけを言っておく。

 拓馬と女の人が一緒にいるのを見かけてから、一か月が経った。

 あれから彼女と拓馬が一緒に居るのをみたことはない。

 あの日、自分が夢を見たのかと疑いたくなるほどだ。

 ただ、そう考えるのはあまりに利己的で、現実逃避に過ぎないことも分かっていた。

 もうすぐ冬休みになる。傾きかけたわたしの成績はなんとか回復し、合格圏内へと再び返り咲いていた。