「言えなかったんじゃないかな。自分が面倒を見てもらうだけでも迷惑がかかると思っていたみたいだから。本当はもっと早く引っ越せばよかったと思っていたみたいだよ。

そうしたら拓馬に迷惑がかからなかった、と。もっとも拓馬はここに戻ってきて、迷惑とは微塵も思っていないだろうけどね」

 奈月は悪戯っぽく微笑む。

 その笑顔を見て恥ずかしくなってきた。

「拓馬の家で飼えないなら、うちで飼ってもいいんじゃない? お父さんとお母さんの説得なら手伝うよ」

「ありがとう。お姉ちゃん」

 奈月は目を細めていた。





 放課後、いつものように帰ろうとすると、靴箱で拓馬が立っていた。

 わたしは佳代に背中を押され、戸惑いながら彼のところに行く。

「たまには一緒にと思ったんだけど、大丈夫?」

「大丈夫だけど、千江美さんは?」

「美月と一緒に帰ればって言われたよ。奈月と一緒に帰るから俺は必要ないんだってさ」

 拓馬は大げさに肩をすくめる。

 彼女にどんな心境の変化があったのかは分からない。だが、その変化が彼女にとっていい方向であればいいと思っていた。