こんな形でお年寄りとまた接することになるなんて…と、体から力が抜けていくようだった。


唄い続けるおばあちゃんの声は、とても澄んでて綺麗だった。

誰かに癒されたい…と願ってたあたしの心でさえも、しみじみと感じ入るところがある。

名前も年齢も知らない『ゆる彼』の祖母の存在に、暫し心を打たれた……。





「…ご飯にしようか?」


話しかけてるのは抱いてる人形にかと思った。
でも、どうやら視線はこっちを向いてる。

白内障らしき濁った目線は、確かにあたしに向けられていた。


「う、うん。あっ…はい」


つい自分の祖母と同じ感覚で返事をしてしまった。
よく考えたら、久城さんの祖母。
彼が彼女を連れて来て、3時間近くが経過していた。


「あ、あたしが何か作ります…!」


不慣れだけど…と立ち上がると、おばあちゃんはビスクドールを座椅子に座らせてこう言った。


「いいよ、私が作る。ユイカちゃんはこの子と遊んでてあげて」


いつの間に持って来たのか、玄関先に置きっ放しだった荷物の中から白い割烹着を取り出した。

ヨレてポケットの外れそうな割烹着を身に付けて、おばあちゃんは部屋を出て行く。
真っ直ぐキッチンへ行けるのか…と後を追うと、まるで場所を覚えてたかのようにキッチンへと入って行った。


ぽかん…としてるあたしの目の前で、ささっと手を洗って冷蔵庫を開ける。