今日はプレゼン、朝から半端なく緊張してる。
いつものように出勤すると既に玲美ちゃんと木ノ下君が出勤していた。

「おはよう」

「おはようございます…」

「今日は二人共早いね?」

ん?なんか二人共いつもと違うような気がする。

「あれ?玲美ちゃんそれ昨日と同じ服?」

「え?あっ…えっとー」

玲美ちゃんはモジモジしてはっきりしない。
すると木ノ下君がそばまで来て右手をピースする。

「やっとOKしてくれました」と言う。

そうかそういう事か!?

「木ノ下君の気持ちが報われたという事か良かったね?」

すると今までモジモジしていた玲美ちゃんが目を輝かせる。

「先輩その左手に輝いてる物エンゲージリングですか?」と聞く。

「う…うん、エンゲージリングは別に有るけど、まあ同じような物」

「それピンクダイヤですよね?それの他にエンゲージリングがあるという事ですか?凄い、それより凄いものなんですよね?」

「あっあれどうかな…」

玲美ちゃんが騒ぎ出したから私は研究室へと逃げた。
プレゼンは10時から、もう一度資料を確認する。
何度確認しても緊張と不安が無くなるわけでもないが確認せずにはいられない。
9時45分、そろそろ時間だ試作品の口紅をつけ準備する。

「葉瀬さん、そろそろ時間なんでお願いします」

「うん」

恭之助さんはいつもと同じ返事だけどほんの少し微笑んでくれる。
さぁ出陣!
エレベーターで10階大会議室に向う。
扉をあけると既に各部署や各課の開発者が来ていて半分以上の席が埋まっている。
私達は席に着くと九龍さんがやって来て私の隣に座った。

「差咲良緊張してるか?」と九龍さんは聞く。

「はい…半端なく緊張してます」

「そうか?だが隣に葉瀬が居るから心強いだろ?」

「え?」

「葉瀬、このプレゼンが終わると今まで以上に差咲良へのアプローチをして来る男が増えるぞ?覚悟しとくんだな!」と九龍さんは微笑する。

私は首を傾げ九龍さんを見るが何も言わず、恭之助さんは苦笑してる。
その後すぐにプレゼンが始まった。
各課開発者がそれぞれの作品を発表して行く。
次は私の番、緊張で手が震える…
すると膝の上に置いていた手をそっと恭之助さんが手を重ねる。

「大丈夫、自身を持て行って来い」と言ってくれた。

私は頷いて席を立ち会議室前方の発表席まで行く。
プレゼンは無事に終わり開発室に戻る支度をしていると他の部署の人が声を掛けてくれる。

「差咲良さんお疲れ様」

「あっお疲れ様です」

「差咲良さん素晴らしかったよ!」

「あ…有難うございます」

なんだか急に声がかかるようになった見たい。

「差咲良碧海さん」

背後から声がかかり振り向くと社長だった。

「しゃ…社長!?」

「お祖母様はお元気かな?」

「は、はい、お陰様で元気にしております」

「そうかそれは良かった。今日のプレゼンは素晴らしかったよ、これからも頑張ってくれ期待してるよ?」と言って会議室を出て行った。

うっそ…私、社長に褒められちゃった…
ほとんどプレゼンで何を言ったか覚えていなかったからホッとした。

「差咲良、良かったな?お疲れ」と九龍さんは言って会議室を出て行った。

「まぁ社長のあの様子なら新春の発売は決まりだな!さぁ俺達も戻ろうか?」

恭之助さんと2人で開発室に戻ってくる。

「プレゼンはどうでした?」

扉を開けるなり玲美ちゃんと木ノ下君が聞く。

「なんとか無事に終わったよ」

「じゃ後は結果を待つだけですね?」

そう、後は結果を待つだけ…
結果は今日中に出ると聞いている。
まぁここまで来たらジタバタしても仕方ない。
と、言っても結果が出るまで落ち着かない。
今日も食堂には行かず自分の席で休憩を過ごす。

「ねぇきょ…葉瀬さん社長とお祖母様は知り合いなのかな?」

「あぁ社長とうちのじぃ様と碧海のばぁ様は古い友人って聞いてる」

「そぅなんだ」

「だからって私情を挟む人じゃないよ、仕事には厳しい人だよ」

「うん…」

もうすぐ就業時間と言う時に九龍さんの席の電話がなる。

「差咲良、決まったぞ!来週から製造に入るぞ」

「先輩やりましたね?おめでとう御座います!」

「先輩おめでとう御座います!」

木ノ下君と玲美ちゃんがお祝いを言ってくれる。
決まったと聞いてホッとしたら涙が溢れてきた。

「…有難う……」涙を拭いながらお礼を言う。

「先輩、打ち上げしません?」

「ごめん…今日は、お稽古事が有るの」

今日は、週に一度のお稽古の日、今度からは自分で行くと木理子さんにも言っていた。

「お稽古事?何を習ってるんですか?」

「うん…生け花をちょっと…」

「えー先輩が生け花ですかー?」玲美ちゃんは目を丸くして驚いている。

「アハハ…私の柄じゃないかな?」

「そんな事無いですよ、先輩にとてもお似合いだと思います」と言ってくれたのは木ノ下君だった。

「有難う」お似合いとは恭之助さんの事だろうか?

そして木ノ下君は「玲美、打ち上げは明日にしよう?」という。

玲美ちゃんは恥ずかしそうに頷く。
うふふ玲美ちゃん可愛い。

私は急いで更衣室に行き支度を済ませエレベーターに乗り込み社を出る。
家に帰ると着物に着替えタクシーに乗り込み出かける。
タクシーを降りると大きなお屋敷、門には華道葉瀬流と書かれた大きな表札。
私はここに来るのは初めてで1つ深呼吸をして中にはいる。
玄関を入るとお手伝いさんが迎えてくれて離れに案内してくれる。
部屋には恭之助さんが待っていてくれた。

「碧海早かったね?」

恭之助さんは袴姿だった。

「うん…」

「どうした?」

「恭之助さんの袴姿初めてだったから、見惚れてた」

恭之助さんは少し照れたように笑うと「始めようか?」と言って手ほどきをしてくれ?
お稽古が終わると恭之助さんに母屋へ案内されお茶を頂く。
そこへ恭之助さんのお母様が入って来られた。

「碧海ちゃんいらっしゃい」と微笑んでくれる。

恭之助さんのお母さんに会ったのは婚約パーティー以来だ。少し緊張しながらも「お邪魔しております」とお辞儀をする。

「そんなに固くならないで、それより結婚式の話は進んでる?」

「お袋そんなに急かすなよ!まだ婚約したばかりだろ?」

「まぁそうだけど早く見たいわ碧海ちゃんの花嫁姿」

「あぁそのうちな?そろそろ俺達帰るわ!」

緊張で粗相をしないかと心配していたので、恭之助さんの言葉でホッとした。

「もっとゆっくりしていけば良いのに、碧海ちゃん今度はゆっくり遊びに来てね?」

「はい、お邪魔しました」と会釈をして部屋を出る。

葉瀬家を出ると恭之助さんの車はクレラントホテルの地下駐車場に入った。

「今日は碧海のお祝いだからね?レストランを予約してある」

エレベーターで最上階のレストランに向かった。
レストランでは窓際の席に案内された。玲美ちゃんが夜景が綺麗だと言っていたが本当に綺麗だった。
まるでたくさんの宝石を散りばめた様に輝いていた。