あたしの高校では7月の中旬に文化祭がある。

 6月下旬。やっと退院できたあたしは、教室に入るのを少し躊躇った。

『大丈夫。みぃちゃん、大丈夫だから。頑張ろ?』

 お母さんに言われたことを思い出して、教室のドアをゆっくり開けた。

 文化祭の準備について、係りを決めている最中だった。

 あたしの席の前で親友の藤山優奈と目があった。

 久しぶりに見る優ちゃん。

 あたしの隣の席で、あたしの好きな人。

 田中廉太くんとも目があった。

「みぃちゃん!!」

 優ちゃんの大きな声で、クラスの視線があたしに向けられる。

「「「みぃちゃん!!」」」

 クラスのみんなが話し合い中にも関わらず、あたしを迎え入れてくれた。

 身長が145センチのあたしはみんなに、いつものように見下ろされて頭を撫でられる。

 目に涙を溜めた優ちゃんに抱きしめられる。

「みぃちゃん、おかえり!!」

「優ちゃん、みんなただいま」

 あたしはニッコリ微笑んで言った。

「さっ、みんな座って話し合い再開しよう!!」

 優ちゃんの声でみんなが頷いて、席につき始めた。

 あたしも優ちゃんと一緒に席に戻った。

「あっ・・・・・・」

 カバンを机の横にかけると同時に、キーホルダーが転がってしまった。

 床に転がったキーホルダーに手を伸ばした。

 すると、あたしの手より大きな手がキーホルダーを拾った。

「はい。おかえり、美咲」

 拾って、あたしの手をキーホルダーと一緒に包み込んだ。

 この声は、廉太くん・・・・・・?

「たっ、ただいま」

 久しぶりに話せてうれしかった。

 廉太くんはいつもみたいに優しく笑った。

「じゃあ、俺らのクラスはメイド喫茶でいいかー?」

「「「賛成ー!」」」

 どうやら、あたしたちのクラスはメイド喫茶をやるらしい。

「あ、でもさー。メイド服が、数人分しかないから、あとの人は調理とかに回ってもらうけど。だれが着るー?着る人は接客な!」

 クラスの中心の女の子たちがバラバラと手をあげだす。

 ゆ、優ちゃんも!?

 すると、クラスの男子が1人ガタンと立ち上がった。

「みぃちゃんには確実に着せようぜー!」

 えっ!!あたし!?なんで!?

「俺も、みぃちゃんのメイド見てえ!」

「賛成!着せようぜ!」

 ちょっ、みんな、なんでそんな・・・・・・!

 優ちゃんも、振り向いてニッコリ笑った。

 クラスのみんなの視線があたしに向けられる。

「おい廉太ー。説得しろー!」

「「ヒューヒュー!」」

 な、なんで廉太くん!?しかもなにその冷やかしみたいなの!!

「うっ、うるせえ!」

 廉太くんは顔を赤くして、あたしを見た。

「め、メイド・・・・・・着ろよ」

 廉太くんがそう言うと、クラスは盛り上がった。

 なんでこんなに盛り上がるの!?

 廉太くんは耳まで真っ赤になってうつむいた。

「みぃちゃん、いいよね!?」

 優ちゃんの一言で、クラスがまた静寂に包まれる。

 だって・・・・・・そこまで言われたら・・・・・・。

「・・・・・・うん」

 あたしが了承すると、また一気に盛り上がった。

 そのあとも、優ちゃんもメイド服を着ることになり話し合いが終わった。

「みぃちゃん頑張ろうね!」

「美咲、頑張れよ」

 まだ少し顔が赤い廉太くんと、笑顔の優ちゃんに大きく頷いた。