「なんだ、総史(そうし)は行かなかったのか」

父さんが僕に声を掛けた。


「うん。空手の方が面白い!」

「そうだなぁ。総史はそんな感じだな」



頭の奥に、つい最近見た優斗(ゆうと)の姿が焼き付いていた。



―兄ちゃん兄ちゃん!見て!デキタ!―



ぶざまに、それを見上げている自分の姿も。

その時に起こった、凶暴な感情も。


道着を持って表へ出た。


2歳になった上総(かずさ)が、立てかけてあるサーフボードに爪を立てていた。


「下敷きになっちゃうぞ」


ボードを横に倒した。

上総は小さな体でそれを地面に引きずり置くと、すぐにポーズを取った。


「すごい。見て、とーさん!」

「おお!上総もやるか!」


上総は、何にも感じないのに。


「行ってきます」

「ほら、お兄ちゃんに行ってらっしゃい」

「イッテラッシャイ!」