「……っ、ごめんなさ……」


私はぐす、と鼻を啜り、なんとか泣き止もうとするけれど、涙は次々とあふれてくる。

社長はそんな私にスッと手を伸ばすと、いつまでも小刻みに震える私の身体を抱き寄せた。

一瞬びっくりしたけれど、今は彼の温もりに触れていたい、そう思って、彼の胸の中で目を閉じる。

とくとく聞こえる心音は、私と同じくらいに速かった。

……なんでだろう。今日は、意地悪な彼じゃないみたいだ。

そんなことに胸を温かくしていると、私を抱き締めたままで彼が語り出す。


「……僕は、幼い頃から経営者になるための特別な教育を受けていました。その一環で、日常生活に関してもかなり厳しくしつけられていたんです。……父の手によって」


いわゆる、帝王教育というやつだろうか。経営者の家に生まれると、子供の頃からそんな教育を受けるんだ……。


「食事のマナーや言葉遣い、付き合う友達も制限されていました。しかし充に関しては父も頭を悩ませてましたね。家柄は問題ないのに、本人に問題があると」

「ほ、本人……」


充さんとのエピソードに涙は止まり、思わず苦笑してしまう。

彼にいやな顔をするお父様の気持ちもなんとなく想像がつくな、なんて思いながら。


「それから……」


言いかけた社長は、ほんの少し身体を離して、泣きやんだものの未だに濡れた私の目元を、親指でそっと拭った。


「一番つらかったのが、“泣くこと”を禁じられていたことです。どんなに悲しくても、悔しくても、涙を流したら“軟弱だ”と怒られました。最初は理不尽に思いましたが、慣れれば涙腺も退化したようで……僕は、泣かない子供になりました」


泣かない子供だなんて、なんだかすごく不自然に思える姿。

社長があまり感情を表に出さないのは、そんな過去も関係しているのかな……。