「……外出許可が出ているのは本当です。いや、むしろ許可なんてほとんど要らないんです。今の父には、何でも許されています。たとえば、飲酒や喫煙も」


お酒とたばこが許されている……って。病人のイメージとかけ離れているけれど、私が無知なだけなのかな?

だって、どちらも体には悪影響だよね……?

怪訝そうにする私に、彼はひとつひとつ、ヒントを与えるように、言葉を紡ぐ。


「塩分や糖分の制限もありません。好きな食事を好きなだけすればいい。……もっとも、食欲はあまりありませんけど」


食欲はない。それほど体の状態が悪いのに、食事制限がない。……それって、なんだか、まるで。


「つらいのは、ひどい痛みが現れたときと、それを抑えるために投与したモルヒネの副作用で吐き気を催すことだそうです。もっとも、息子である僕にはそんなこと一切言いません。いつも付き添っている母に聞いたことです」

「……モル、ヒネ」


病気の治療薬というよりは、中毒症状のある薬物としての印象が強いその名前を、こうして口に出すのは初めてだ。

だけど、医療現場で使われることがあるというのは、本やテレビで見たことがあるから知っていた。

そして私の知る限り、投与されるのは、だいたいが、末期のがん患者――。


「あそこに、ピンク色の建物が見えるでしょう? 父は、あの病院の緩和ケア病棟にいます。……余命は、あとふた月です」