社長室に入ると、会議室の重々しい雰囲気から解放されたこともあり少しホッとした。

でも、私は自分がなぜ呼ばれたのかわからず、壁を背にして立ったまま社長を見つめていた。

彼はつかつかと部屋の中ほどまで進むと、うっとうしげにジャケットを脱ぎソファの上に放った。

それからネクタイの結び目を緩めながら近づいてきて、私の目の前で立ち止まる。

けれど、彼は私と視線を合わせることなく俯いてしまった。

伏せられた長い睫毛からどことなく寂しさが漂っていて、きゅ、と胸が締め付けられる。


「社長……?」


心配になって声を掛けると、少し高い場所にあった彼の顔がゆっくりと降りてきて、その額がコツン、と肩につく。

なんだか社長らしくない弱った様子が気になりながらも、トクンと胸が音を立て、肩に触れている彼のぬくもりに意識が集中してしまう。


「……嘘は、得意な筈なんですけどね」


そのとき、くぐもった声が、微かに聞こえた。


「嘘……お父様のこと、ですか?」


なんとなくだけど、さっきの会議で彼の様子を見ていたら、そんな気がした。

私の問いかけに、社長は少し顔を上げて、自嘲気味に笑う。


「きみに気付かれていたのでは、他の皆も気づいていたでしょうね。……もう、隠しておくのも限界なのかもしれません」


社長はブラウンの前髪をかきあげると、私から離れて窓際へ歩いて行った。

私もゆっくりとついていき、窓の向こうをぼんやりと眺める彼の隣に並ぶ。