「……社長のやり方にはついて行きかねます」


ため息交じりに言ったのは専務だ。社長に見惚れてぼうっとしていた私も、その言葉で我に返る。


「まったくだ。あなたの取った方法のほうが、よっぽど利益は確約されていないじゃないか」


同調するように、常務も渋い顔をして語る。


「いいえ、僕は勝つ自信のない勝負は仕掛けませんよ。僕は超能力者ではありませんが、会社の経営に関してだけ言えば、ある程度の未来は見えます。むしろ、そうやって先を見通す力がなければ社長などできませんから」


透明感のある声で穏やかに語る社長に、他の重役たちがぐ、と言葉に詰まる。

会議室にはしばらくいやな沈黙が流れ、張りつめた緊張感に胃が痛くなりそうだ。


「……そうですか。私どもと社長の意見が相容れないのは残念ですが、決定権はあなたにありますから、仕方ありませんね」

「ええ」


全然“仕方ない”だなんて思っていないであろう、悔しげに震える専務の声にも、社長は短く返事をするだけ。

そんな彼に余計憤りを感じたのか、専務は負け惜しみのようにこんなことを言った。


「あなたのお父様は、もう少し私たちの意見にも耳を傾けてくれたものですがね」


今までほとんど動くことのなかった、直線的で凛々しい社長の眉が、ぴくりとわずかに反応したのがわかった。