「何が言いたいんだね」


堂々と語る社長だけれど、他の重役たちは彼に辟易したような表情で、先を促す。


「僕は昨日、契約のある埼玉の養蜂園を訪れました。そして、買い取ったんですよ。養蜂園を丸ごとね」

「なっ……!」


突然社長が投下した爆弾発言に、それまでふてぶてしい様子で椅子に背を預けていた重役たちが、一斉に身を乗り出した。

だって、養蜂園を丸ごと買っただなんて……!

私と涼子さんも、驚愕の表情で目を見合わせる。


「国産のハチミツがどうして高いのか。その理由は色々とありますが、養蜂の仕事には後継者が少ない、というのも大きな理由の一つです。僕だって、先祖が生業としてきた養蜂を職業に選ばず、こんな場所で会議などしていますし」


冗談交じりに話す社長は、彼に向けられた異様な空気をものともせずに続ける。


「しかし僕は養蜂ができない代わりに、会社を、そこにいる社員を育てることができる。つまり、直接うちの会社が養蜂園を所有して、社員に養蜂業を一から学ばせればいい。そう思ったんです」


……なんて強引なやり方なんだろう。
しかも、それをこの場にいる重役の人たちに相談せずに決めただなんて、ワンマン社長もいいところだ。

そう思う一方で、彼の持論に、目からうろこが落ちる思いがするのも確かだった。

そして、こんな時に不謹慎だとは思うけれど……自分の考えを毅然と話し、自分よりずっと年上の重役たちを圧倒する社長の姿に、胸がときめいてしまう。