「莫大な利益……というのは無理でしょうが、国産ハチミツを原材料としている製品のラインで今後は低コストの製品を作れますから、設備投資なしに生産量を増やすことができます。その点は、大きなメリットだと思います」


専務が自信ありげにそう口にすると、社長は少し考える素振りをしてから、ふ、と鼻から息を漏らした。
口角はかすかに上がり、微笑んでいるようにも見える。

そんな彼を見て、専務は怪訝そうに言う。


「何がおかしいんです」

「いえ、何も。それは確かにメリットだと思いますよ。ただ、守りに入ったやり方なので、あまり僕は好きではありません」


よどみない声で言いきった社長に、周りの重役たちは呆れたようにため息を洩らす。

一気に険悪なものになった会議室のムードに押しつぶされそうな私がごくりと唾を呑みこんでいると、ツンツン、と隣の涼子さんに肩をつつかれる。

パッと横を向くと、涼子さんが議事録を作成するために開いているノートパソコンの画面を指さし、口パクで指示する。

“これ、読んでみて”

……ん? この文章を、読めってこと……?


「……もっとやれ、社長。負けるな、がんばれ」


次の瞬間、会議室中の視線が私に集まった。

あ、あれ……? もしかして私いま、音読した……!?