背後から飛んできた透明感のある男性の声に反応して、ドキン!と心臓が跳ねた。

おそるおそる振り返ると、細身のスーツに身を包み、片手をポケットに入れて立つ、無表情の東郷社長がそこにいた。


「あ、の……せ、芹沢です。この度は、私の不注意で社長の大事なものを壊してしまって、大変申し訳ございません!」


……そう。

私は磨こうとしたトパーズを誤って床に落とし、破損させてしまったのだ。

すぐに謝ろうと思ったけれど、そのとき社長は外出中で、私はとりあえず欠片を拾い集め、秘書室に報告することしかできなかった。

壊したものがいったいどれくらい高価なものなのかも知らないし、わかったところで一介のOLに払える額ではないだろう。

だから、大袈裟にクビが飛ぶ覚悟までしているのだ。


「……頭を上げてください」


90度にお辞儀したまま固まっていた私に、近づいてきた社長が優しい声色で言う。

あれ、もしかして、許してもらえる……?

私は顔にかかった髪を整えながら、二十センチくらい高いところにある社長の顔に、おずおずと視線を合わせた。

……わ、綺麗な顔。

まっすぐに整った眉、彫刻のようにに尖った鼻。
スッキリと横に流されたブラウンの前髪から覗く二つの瞳は、中に星でも宿しているかのように、キラキラ輝いている。

こんなに近くで社長を見るの初めてだけど、ハチミツ王子の名は、ダテじゃないかも……

瞬きも忘れて彼の容姿に見惚れていると、彼が一歩私に近付いて、呆けた顔をする私の顎を掴むように引き上げると、こう言った。


「芹沢美都。……トパーズの代金、体で払っていただきます」