「静也……結果を残したいのはわかるけど、無理はするなよ? 芹沢さんにちゃんと甘えて、休めるときは休め」


タクシーに乗りこむ前、充さんが社長に言い渡す。

きっと社長を心配して言ってくれているのだろうと、今日初めて会ったばかりの私でもわかるのに、当の社長はその気持ちに応える気が全くないようだった。


「きみにアドバイスされる筋合いはありません。僕は僕のやり方を貫く」

「それでお前が無理して倒れたりしたら、それこそお父さんに無用な心配をかけさせちゃうと思うけどね」

「……仕方ありませんよ。僕をこんな風にしたのは、父ですから」


充さんの方を見ずに、どこか物憂げな表情で呟いた社長。

その言葉で充さんもようやく諦めたのか、ため息だけ残してタクシーに乗り、美也さんとともにこの場を去った。

残された私たちは何とも気まずい空気に包まれていたけど、私はどうしても気になる疑問を彼にぶつけてみる。


「あの……お父様、お加減悪いんですか?」


彼の父が、病に伏しているというのは東郷蜂蜜の社員ならば周知の事実。

けれど、病名等の詳しい情報は一切公開されておらず、ただ“入院が長期にわたるため”という理由で社長職を退き、息子をその代役に立てた、という流れしか知らない。

神妙な面持ちで彼の答えを待っていると、東郷社長は疲れたように前髪をかき上げ、私を冷たい瞳で一瞥した。


「……そんなことより。店にいるとき、色々と充に余計なことを聞いていたでしょう」

「え?」


質問の内容とは全く違う話をされて、一瞬頭が混乱する。


「どうして過去の僕のことを探ろうとするんです?」


彼はどうやら私と充さんの会話を聞いていたみたいだ。そっけない調子で尋ねられ、私は視線を足元に落とす。