盗み聞きはよくないよね……と、離れた場所にいた私だけど、少し感情的になっているらしい社長は声が大きくて、自然とこんな言葉が耳に入ってしまった。


「追い返してください。彼女と話している時間はありません」


……追い返す。彼女。いったい誰となんの話をしているんだろう。


「……とにかく。僕は芹沢美都以外興味はない。ハッキリそう伝えてもらっても構わないので。それが済み次第、こちらへ向かってください」


不機嫌そうな声で告げると、社長はスマホを耳から離して通話を終えたようだった。

それから、リビングの入り口付近に突っ立っている私に気が付くと、真顔でつかつか歩み寄ってきて、私の姿を上から下まで眺める。


「……そ、そんなに見ないでください」


思わず顔を背けてしまうのは、私を見つめる彼の眼差しが熱いのと、さっき電話口で彼が放った言葉のせい。

“芹沢美都以外興味はない”――だなんて耳にして、どう反応したらいいのかわからない。

恥ずかしさにじっと耐えていると、彼は急に私の耳元に唇を寄せて、妖しげに囁く。


「いいですね……着せたばかりなのに、脱がせたくなる」


耳に吹き込まれたあたたかい吐息にびく、と肩が震えて、じわじわ顔に熱が集中していくのがわかる。


「じょ、冗談はやめてください……」


なんとかそれだけ言い返すと、社長は私から離れていき余裕たっぷりの笑みを向ける。


「本心ですよ。今が朝でよかったですね。夜ならば自制が効かなかったかもしれません」


そ、それはホントに幸運です……。こんな言葉ひとつで心臓が止まりそうになっている今の私が、彼とのそういうアレコレに臨めるわけがないもの。