とりあえず遅刻は免れたようだけど、ホッとするどころかこれからの秘書業務への不安が胸にたちこめる。


「とりあえず、今日の午前中は比較的余裕があります。僕が用意した服に着替えて、それなりのメイク等も済んだら出ましょう。深見が迎えに来ますから」

「は、はい……あの、“それなりのメイク”って?」


普段はナチュラルメイクしかしないんだけど、社長秘書ともなれば、色々盛ったりしなきゃいけないのかな……?

不安げに見つめた先の社長は、綺麗な瞳に私を映して、少しの間考えてから言った。


「普段と同じで構いませんよ。きみは素材がいいので、変に飾らない方が似合います」


そ、素材がいい……!? そんなの初めて言われたんですけど。

化粧っ気があまりないせいか肌はわりとキレイだという自覚はあるけど、パーツはどれを取っても地味というか特徴がないと言うか……とりあえず、冴えない方だと思っていたのに。


それから“着替え”として渡された箱を社長から受け取り、寝室に戻った私はそれを開けて中の服を手に取ると、しばらく固まってしまった。


「こんな素敵なやつ、着たことないよ……」


胸元にドレープを効かせた、落ち着いたパープルのワンピース。

エレガントな印象で、確かに社長の隣に立つ女性はこういう服が相応しいんだろう。

けれど、いつもの私はと言えば、ジャケットにブラウス、タイトスカートというブナンなスタイル。こんなに女性らしく上品なワンピースは着こなせる自信が全くない。

それでもとりあえず着替えを済ませ、洗面所で基本的なメイクとブローを済ませてリビングに戻ると、社長は窓際に佇んで誰かと電話していた。