「いずれは、きみがその役目をしてくださいね? 僕だって、朝から野太い声に起こされて憂鬱な朝を迎えるよりは、きみの声を聞きながら幸せな気持ちでまどろむ方がいいに決まっています」


社長は穏やかにそこまで言うと、「おやすみ」と短く言って私に背中を向ける。

きっと疲れているのだろう。それから数分で安らかな寝息が聞こえて来たけれど、私はやっぱり一向に眠れそうになく、ベッドの上で膝を抱える。

そしてちら、と社長の後姿を眺めながら、思わずひとりごちる。


「苛めてきたり、甘いこと言ったり……どれが本当の姿なんですか?」


その度に気持ちをかき乱されて、たとえ彼から危険な香りが漂っていても、惹かれてく気持ちが止められない。

相手は同じはずなのに、淡い初恋のときとは似ても似つかない、苦しさを伴うときめきで胸がいっぱいで……。

これが、人を好きになるってことなのかな……。

二十八にして初めての経験に心も体も付いて行けず、ふう、と悩ましいため息を吐き出す。

そして社長を起こさないように注意しながら私もそっと横になると、無理でもとりあえず寝てみようと、強くまぶたを閉じた。