「あ、ありがとうござい、ま――」
スマホを返してもらおうと手のひらを上に向けたものの、社長は画面を見つめて、メールの一文を音読する。
「処女喪失できてよかったね……オンプ。と、いうことは。きみは本心ではそれを望んでいたのですか?」
「ち、ちちち違います! これは弟が勝手に……っ!」
彼の手からバッとスマホを奪うと、社長は可笑しそうに口元を緩めて笑った。
あ……今初めて気づいたけど、社長って、そうやって笑うと、笑窪ができるんだ。
さっきは少し怖いとか思ったりもしたけど、意外と可愛らしいそんな一面に、胸がきゅんと音を立てる。
「冗談ですよ。きみがそうやって慌てたり困ったりするのを見るのは本当に楽しいので、癖になりますね」
「癖になるって……」
そんなに楽しそうに言われても、こっちは心臓がいくつあっても足りないんですけど……。
きゅ、と布団を掴んで頼りなく眉毛を下げる私に、社長が気を取り直したように言う。
「ほら、もう寝ましょう。起きなければいけない時間になったら、いやでも深見からモーニングコールがあります」
「え。深見さんから……?」
あの、コントラバスみたいな低い声で起こされるって、どうなんだろう。爽やかな朝とは程遠いような……。