ぼそりと呟かれた言葉に反応して、思わず振り返る。が、発言した彼女はへらっと笑って手をひらひら振る。
「あ、芹沢さんのことじゃないです~」
……うそつけ。また顔に本当のことが書いてあるわよ。
私は無言で顔を背け、黒髪ロングのストレートヘアを揺らして休憩室を後にする。
一喜一憂するもんかと決めたはずなのに、胸の奥がじくじくと痛みだす。
……いっそのこと、社長に“クビ”って言い渡されたら楽になる気がするなーとか思ったりして。
でも、会社辞めて実家に帰ったところで、両親とともに弟夫婦の住まうあそこに私の居場所はないし。
今の仕事でワードやエクセルを使っているといったって、もっぱら入力専門。
マクロとか関数とか言われたら、パソコンより先に自分がフリーズしちゃうくらいのスキルしか持ち合わせていない私に、転職のアテなんてない。
……もちろん、永久就職のアテなんて、皆無。
そんな私が、実際クビになんかなったら、生活していけないってば。
ああなんか、思考がネガティブ……
若いころ履いていたものより歩きやすさ重視にした、低めヒールのパンプスでも重い足取りで庶務課のオフィスに戻ると、私の机の上にさっきまではなかったものが置いてあった。
【さっきはちょっと調子乗りすぎました。芹沢さんいなくなったら、俺を怒ってくれる人いなくなるから困ります】
大き目の正方形のふせんに、上倉の、女の子みたいな丸字。
その上には、途中まで上倉が食べたのであろう、開封済みかつ残り数個しかないきのこの山が置いてあって。