「す、すみません……!」
「まあ、今日の所は見逃します。男性と二人きりでの食事を禁止していたわけでもありませんし。……これから、花嫁修業を重ねていけば、そんな行動はしなくなるでしょう」
「あ、そうだ。その、“花嫁修業”ってなんですか? 昼間も言ってましたけど……」
私が聞くと、社長は急に黙り込み、それから突然私の方に手を伸ばして、手のひらを頬に添えた。
びく、と小さく震えてごくりと唾を呑みこむ私に、彼は徐々に美しい顔を近づけてくる。
「そうですね。例えば……」
吐息がかかるくらいの距離まで接近され、私は瞬きするのが精一杯。
これって、まるでキスされるような体勢なんじゃ……?と、キスの経験のない私でも身構えてしまう。
「……こういう時は目を閉じる」
「え……?」
ぽかんとして聞き返すと、彼がふっと微笑んで頬に触れていた手を離す。
「別に、毎回そうしろというわけじゃありません。キスの最中に目を開けて、相手の蕩けそうな表情を観察すると言うのもまた楽しいですしね。しかし、そういう、基本的な恋愛スキルがあなたには欠如しているようなので、これからひとつひとつ、僕が教えようかと」
「れ、恋愛スキル……?」
そりゃ二十八年間磨くチャンスがなかったから、当然欠如してますけど……。それを教わるのが、花嫁修業の一環ということ?
……この、王子様のような、初恋の相手に?

