王子様はハチミツ色の嘘をつく



それから社長の入れてくれたコーヒーがテーブルに置かれると、彼は微妙な距離をあけて、私の隣に腰を下ろした。

目の前のカップもソーサーもハイセンスかつ高級そうで、それらを手に取ってをまじまじと眺めていると、横から視線を感じた。


「……な、なんでしょう?」

「電話では聞きそびれましたが、さっきまできみが一緒にいた同僚というのは、誰です?」


社長の声は、穏やかなのに、なんだか迫力がある。

男性と一緒にいたと言ったら彼はどう反応するだろう……。言うのがちょっと怖いけれど、嘘をつくわけにもいかないので、私は正直に告げる。


「上倉大和。庶務課でお世話になった……というか、お世話していた後輩です。私が庶務課からいなくなるからって、送別会のつもりで食事に誘ってくれて」

「……まさか、二人きりではないですよね?」


サラッと投げかけられた質問に、私の表情が一瞬で固まる。

どうしよう、そのまさかだけど……この聞き方から察するに、二人きりだったと答えたら、彼を怒らせてしまうんじゃ……。

なんと言ったらいいか思いつかず、ごまかすようにコーヒーをひとくち飲んだ私を見て、社長は呆れたようにため息をつく。


「きみはこれから僕の妻になる身でありながら、他の男と二人きりで食事、しかも酒まで飲んで来たということですか」


じろりと冷たい瞳を向けられ、平謝りするしかない。