そんな風に内心取り乱す私の気も知らず、上倉はコーヒーをごくごくっと一気飲みすると、椅子から立ち上がった。
「……さて。行きましょっか。送別会という名のデート」
「あ、うん……って、別にデートってわけじゃ――!」
「わかってますよ、言ってみただけ。でも……今夜だけ、俺に頂戴。美都さんの時間」
上倉……
切実な表情から彼の真剣さが伝わって、私は黙ってコクンと頷いた。
上倉と連れ立って会社のビルを出ると、ちょうど街が夕焼けに染まっているところだった。
はちみつにも似たその色を見ていると、自然と思い出されるのは、東郷社長のこと。
私が昔泣いていたのは頬を蜂に刺されたからだ、と教えながら彼の手が触れた場所は、今でも少し熱い。
「美都さん」
「……ん?」
……いけないいけない、今は上倉と一緒にいるんだった。
顔を上げて彼を見ると、少し不機嫌そうな上倉がこう言う。
「さっき、若名の前では美都さんのことかばいましたけど……俺は、やっぱ気に食わない。美都さんが、社長の所に行くの」
「気に食わない……?」
「……そ。半分はガキ臭い嫉妬からくる気持ちだけど、もう半分はホントに心配。だって、あんまいい噂聞かないじゃん……社長って」
いい噂を聞かない……か。言われてみれば、確かにそうだ。
私だって、今日直接彼と会うまでは、噂話や社内での彼の悪いイメージを鵜呑みにして、社長室に行くのが恐怖でしかなかったんだもの。
……だけど。

