少し立ち話をしてから二人と別れた後、静也さんはなかなか歩き出さずに顎に手を当て何か考えていた。

私がその顔をのぞき込むと、彼は涼しい顔でとんでもないことを言い出す。


「今日は初めての実家訪問ということでその気はなかったのですが、創希の話を聞いていたら、美都を苛めたい気持ちがふつふつと……」

「な、なに言ってるんですか! これから電車に乗るんです! ここは田舎だから終電も早いし、余計な事考えている暇は――――」

「“余計な事”?」


――あ。やばい、地雷、踏んだかもしれない……!

咄嗟に口をつぐんだけれど、怪しく目を細めた静也さんの顔がじりじりと近づいてきた。

長い人差し指が顎の下に添えられて、くい、と上を向かされる。

そのまま、頭上にある夜空のように美しい瞳に捕らえられて、身動きが取れなくなる。


「きみは、その“余計な事”が大好きなはずですが……違いましたか?」


だ、大好きって……! なんかすごくふしだらな女みたいに聞こえる!

でも、ここで否定したら、静也さんがさらなる意地悪を仕掛けてくる気がする。


「……好き、ですよ。大好きです。静也さんにされることなら……なんでも」


かぁっと顔が熱くなるのを感じながら告白すると、静也さんが満足げにふっと微笑み、私の顎をつかんだままで優しいキスを落とした。

さっき家でお互いけっこうなお酒を飲まされたからか、お互いの吐息からアルコールが香って、頭の芯が痺れる。

ああなんか……もっともっと、キスが欲しいな。

酔ってるのかもしれないけど、たまには私から仕掛けたっていいよね……?


私は地面からかかとを離して、静也さんの首に腕を絡めると、彼のきれいな唇をはむ、と啄んだ。

そしてするっと腕をほどいて彼から離れると、えへへ、と照れ笑いを浮かべて、静也さんと手をつなぐ。