【庶務課 芹沢美都 13時に社長室まで来るように。時間厳守】


――ああどうしよう。

私みたいな庶務課のお茶くみOLが、社長室に呼び出されるなんて。

その理由はやっぱり、昨日の“アレ”だよね……

五月中旬の某日。パソコンの前で朝のメールチェックを済ませたとたんに憂鬱な気分になっている私、芹沢美都(せりざわみつ)は、業界ナンバーワンシェアを占める蜂蜜メーカーの本社に勤める、二十八歳。

今までの三十年弱……いや、二十年余の人生で浮いた噂の一つもない、独身街道まっしぐらな淋しいOLである。


「わー……芹沢さん、社長からじきじきにメール来るなんて、もうクビ決定ですね。送別会、俺が企画してあげますよ」

「……うるさい、上倉っ!」


人のメールを覗く不届きな後輩、三つ年下の上倉大和(かみくらやまと)に鉄槌をくらわそうとして、呆気なく避けられる。

そんなところにも、すでにはじまりつつある老化を感じて悲しくなる。

上倉はふわっと揺れる柔らかそうな茶色の髪のセット具合を気にしながら、私のななめ向かいのデスクの椅子を引くと、面白がってること丸出しのニヤついた顔で言う。


「……いいですか? 会社も皆さんの家のお財布事情と同じなのです。無い袖は振れない。当たり前のことです。そして、一番手っ取り早く削れる経費――それは」

「“人件費”……でしょ? いいわよもう、コトブキ退社の予定もない私はどーせ会社のお荷物よ!」


社長の口調を真似してふざける上倉にふんっと鼻息をお見舞いして、お茶くみOLらしくお茶をくみに席を立つ。