百周年記念式典から、およそ一か月が経った。

八月に入ると、例の埼玉県の養蜂園での研修が少数の社員で試験的に始まった。

なんとそのメンバーに庶務課で可愛がっていた上倉が入っていて、彼は本社から去ってしまった。

彼は、上倉を想い続ける若菜さんと同じ職場にいることはお互いにとってマイナスになると、自分から志願したのだそうだ。
その話を聞かせてくれたのは、ほかでもない若菜さん。

彼女は式典でのことを謝りに秘書課まで来てくれて、完全にとはいかないけれど、とりあえずわだかまりも薄れた。

上倉と距離を置いたことで、少しずつ本来の彼女を取り戻しつつあるみたいだ。


静也さんのお父様は医者に宣告されていた余命の期間を過ぎても大きく体調を崩すことはなく、むしろ最近は元気が戻ってきたらしい。

そのことに関してお父様自身は何も言わないけれど、お母様がこっそりと教えてくれた。


『式典のときのプレゼントが余程うれしかったんだと思うわ。精神的なことが余命に影響することも珍しくないと、担当の先生が言っていたの』


それなら今度は結婚式を楽しみにしてもらって、もっともっと長生きしてもらおう――。

静也さんと私はそう考えて、慌ただしく準備に取り掛かることにした。



その第一段階として、会社のお盆休みを使って二人で訪れたのは、私の地元。

東京から電車で一時間ほどの、のどかな田舎町にある私の実家に、結婚の挨拶をしに来たのだ。