王子様はハチミツ色の嘘をつく



「危ない!」


そう叫んで咄嗟にお父様の身体を受け止めたのは、静也さんだ。

彼はそのままゆっくりお父様を床に横たえ、手を握りながら語り掛ける。


「苦しいですか? 救急車を呼びましょうか?」


静也さんが焦りの滲んだ声で問いかけると、お父様はかすかに首を横に振って力なく笑う。


「いいんだ……。たぶん、あの世から迎えが来ただけだから……」


そんな……! そんな急に……寂しいこと、言わないでください……。

確かに、お医者さんに言われている余命の期限は近いかもしれない。でも、まだ、ダメです……。

胸がぎゅっと締め付けられてお父様を直視できないでいると、静也さんの怒鳴り声が聞こえた。


「何を言っているんですか、縁起でもない!」


強い口調なのに、声が震えている。

その理由は、小刻みに震える静也さんの肩を見ればすぐにわかった。

静也さんも、私と同じ嫌な予感を抱いて、けれどそれを受け入れられなくて……涙を堪えられないんだ。


「最後に……あの味に巡り合えて、うれしかったよ、静也」

「最後って、なんですか……っ。僕はまだ、父さんを超えられていません……! 勝手に逝くなんて、認めない……!」

「まあ……確かにそれはまだかもしれないが、その若さにして自分の弱さと向き合えたのは、価値のある事だ。あとは……美都さんが傍にいれば、その日が来るのも遠くないだろう」