「どうぞ、お近くのお皿をお取りください」
司会者の合図で、社員たちが「どれどれ」といった感じに近くのテーブルに集まってくる。
そこにあるのは、パーティーが始まる前に創希さんに味見させてもらった、フレンチトーストだ。
私はそれが静也さんのご両親にとってどんな意味を持つ料理であるのか、彼と初めて体を重ねたあの夜に聞いた。
『旅行中、ホテルのルームサービスで、両親は何気なくフレンチトーストを頼んだらしいんです。それが衝撃的な美味しさだったと、小さなころから何遍も聞かされていました。三ツ星レストランで本場のフルコースだって食べたはずなのに、一番の思い出の味はそのフレンチトーストだったと、二人口をそろえて言うんです』
だから……お父様の病状が悪化して何も口にできなくなる前に、もう一度同じものを食べさせてあげたい。
そして、お母様との大事な思い出を振り返る時間を、プレゼントしたい。
それが、静也さんの考えた“親孝行”だったのだ。
さらに、本日オープンのフレンチトースト専門店でも、そのメニューは食べられる。
食パンかフランスパンか……静也さんが後者にこだわっていたのもそのため。
ただし、その後創希さんとの打ち合わせを重ねるうちに、パンの種類はお客様の希望に合わせて選べることになった。

