以前私も同席した重役会議では、むしろ強気な発言をしていたはずの静也さんが、初めて明かす、正直な思い。


『それが伝わったところで自分への評価が甘くなるだなんて思っていません。でも、父へのコンプレックスから彼らの前で突っ張ってしまう自分から卒業したいのです』


式典が近づいていたある夜、静也さんが私にそう話してくれた。

けれど、実際にその日を迎えたとき、素直に打ち明けられるかどうか、不安だとも言っていた。


「ちゃんと、言えましたね……」


私は口の中だけで、こっそりとつぶやく。感極まって目頭が熱くなるけれど、彼の言いたいことは、まだ終わっていない。泣くのはまだ早い。


「百周年という大切な節目を迎えるそのときの社長が僕でいいのか……そう悩んだこともありました。でも、今は違います。逆境にどう立ち向かうかは、幼いころから父に叩き込まれていましたから。厳しすぎて、昔は煩わしいと思っていた父の教えに、今では……感謝しているんです」


まっすぐ前を見据えていた静也さんの視線が、ふと会場の端に向けられた。

そこには、私も知っている……けれど昔よりずっと痩せてしまった先代の社長、静也さんのお父様が、車椅子に座っていた。

社長だったころに纏っていた厳しそうなオーラは一切なく、優しい瞳で静也さんを見つめている。

静也さんに聞いた話では、お父様も静也さんと同じように、素直に気持ちを表現するのが下手だというイメージだったけれど……

今きっと、ふたりの気持ちは通じ合ってる。静也さんの思いはお父様に届いてる。

そう思ったら、思わず頬を涙が伝って、私はハンカチを目元に当てた。