「深見さん……」


彼の口から“運命”なんて言葉が飛び出すなんてすごく意外だし、なんだか照れくさい。

でも……やっぱり、素直にうれしい。


「ありがとうございます」


――高価なトパーズを壊してしまった、とびくびくしながら初めて訪れた社長室。

そこで静也さんが私の初恋の王子様なのだと勘違いして、運命的な再会にドキドキした。

けれど、最初に聞かされていたトパーズの価値も、彼の正体も、真っ赤な嘘。

本当の彼は、私を泣かせて喜ぶとんでもなく意地悪な人だった。

それがわかっても、どうしてか心が彼から離れなくて、ときどき垣間見せる弱さや頼りなさも含めた“本当の彼”にどんどん惹かれていって。

この歳まで本気の恋に出会ったことのなかった私に、静也さんは教えてくれた。

愛されることの喜び。そして、自分自身もたった一人の誰かを愛することで、心が強くなれるってことを。


「……社長の挨拶がちょうど始まるところですね。さあ、芹沢さん、早く」


静也さんの挨拶に水を差さないよう、音を立てずに会場の扉を開いた深見さんが、私を中へ促す。


「はい」