先ほど若菜から教えられた場所を深見に伝えて電話を切ると、僕は頭の中のスイッチを切り替える。

今日は、社員たちに伝えたいことがある。

それは、父に代わって、今日まで社長という重たいものを背負ってきた僕の、嘘偽りのない気持ち。

今まで虚勢ばかり張ってきた僕の、本当の姿を、彼らに初めて明かそうと思うのだ。

僕を煙たがっていた重役たちが、いよいよ本気で失望するかもしれない。

それでも、今日は、本音を話すと決めたんだ――。


会場の前にたどり着くと、僕はネクタイを整えながら扉を睨みつけ、強い決意を胸に、重い扉を押した。

室内に入ると、大勢が集まっているせいでこもった熱気のなか、たくさんの会話をくぐるようにして、ステージのそばに近づいていった。

そこには、予定より早い到着となったらしい両親の姿もあり、車椅子に座る父と、それに寄り添うようにして立つ母が見えた。


来てくれて、ありがとう。

会社の歴史だけでなく、社員の心に残る式典にしてみせます。

胸の内でそんな決意表明をすると、段々と心地よい緊張感が全身に満ちていく感覚がした。