「若菜さん?」


問いかけている間に外からの明かりがどんどん細くなって、なんだか嫌な予感……と冷や汗が背中を伝う。

よく考えたら、ホテルの人がこんな場所を部外者に立ち入らせること自体、おかしくない?

そんな当たり前のことに気が付いた時には、私の世界は真っ暗になっていて……

バタン、と扉の閉まる音に続いて、まるで鍵を施錠したかのような不吉な音が耳に入った


「嘘でしょ……?」


内側からノブに触れ、ガチャガチャ回してみるけれど、やはり鍵を閉められてしまったようで、扉は開かない。


「若菜さん!」


ドアをバン、と叩いて呼びかけると、その向こうから恐ろしいくらいに冷めた声が聞こえた。


「……さっき、見ましたよ。社長のイトコといちゃついてるところ」


創希さん……! ああ~まずい。さっきのは、彼女に見られたらいけない光景だった。


「あのね、若菜さん何か誤解して……」

「誤解? 社長と結婚するくせに、上倉さんの心いまだに縛りつけて、そのうえほかの男にもいい顔してるのは事実でしょ? あんたなんか、ずっとここにいればいい。今日は社長のお父様もお見えになるんでしょう? 大事な記念式典をすっぽかした社長秘書なんて、どう思われますかね」


大事な式典をすっぽかした社長秘書……。そう思わせることが、彼女の狙いなんだ

どうしよう。一緒に会社の節目を見届けるって、静也さんと約束したのに……。