「父に親孝行がしたいだなんて、美都がいなければ思わなかった。今日という大事な日を、こんなに穏やかな気持ちで迎えられるのは、間違いなくきみのおかげです。だから……今日は、一緒に見届けてください。会社の大事な節目を」

「静也さん……」


きっと、今言ってくれたことは、嘘偽りない静也さんの気持ち。全身を包み込む彼のぬくもりで、それが伝わった。


私だって、あなたがいたからここまで頑張れたんだ。

冴えない庶務課OL――前の自分がそうだったのは、守りたい信念なんて何もなかったからなんじゃないかなって、今なら思う。

後輩からはお局扱いされ、上司からも行き遅れた娘扱いをされ、重ねていく勤続年数と自分の仕事のスキルが大して比例していないような気もして……そのことに、危機感すら覚えなくて。

でも……意地悪で嘘つきな王子様が、私をさらったあの日から、そんな穏やかで平和な時間はすごせなくなってしまった。

毎日がドキドキと緊張の連続で、気の休まる暇もないけれど、静也さんのために頭も体もフル稼働させるのは、苦にならないから不思議。

彼の役に立ちたい。彼を支えたい。

いつでも彼の一番近くで、彼の“嘘”の裏側に潜む本心に気づける自分でありたい。

そんな信念を持った今の自分は、決して“冴えない社長秘書”ではないと思うんだ――。


「素敵なパーティーにしましょうね。絶対」


私は身体を離し、彼の目を見つめながら、力強く告げた。

静也さんもそれに応えるように、しっかりと頷いてくれた。