暑さも本格的になってきた、七月中旬の金曜日。

とうとう東郷蜂蜜は創立百周年を迎え、その当日に記念式典を迎えることになった。

都内の有名ホテルの広い会場を借り、盛大に行われるパーティーは、十八時からはじまる。

けれど社内の人間は午前中のうちから忙しなく会場内を動き回り、準備にいそしんでいる。

もちろん私も例外ではなく、取引先から送られた祝電の本数や送り主をチェックしてリストにしたり、同じく送られてきた花を飾る場所を事細かに指示したり、こまごまとした仕事に追われてバタバタとしていた。

そんな中、少しだけ時間が空いたときに静也さんに呼び出され、私は今日のために用意した上品なゴールドのドレスの裾を揺らしながら、彼のために用意された控室へ向かった


「失礼します」


ドアを開けると、窓際に立っていた静也さんがこちらを振り向く。

スーツ姿は見慣れているとはいえ、ブラックスーツに、シルバーのネクタイを合わせた普段よりフォーマルな服装の彼に見惚れてしまう。

静也さんは、やっぱり王子様だ。眩しくて目がくらみそう……。


「……美都。現実に戻ってきてください」

「え、すすすみません!」


煩悩を追い払って部屋の中ほどまで進むと、静也さんは傍らの小さなテーブルの上の花瓶に生けられた花に触れながら、口を開いた。