たぶん今の私は、静也さんの言うところの“困った顔”をしていると思う。

そして、彼はいつも私がこの顔をすると、同じことを言うんだ。


「……そんなに僕を煽って、後悔しても知りませんよ?」


意地悪な口調で、静也さんが釘を刺す。

でも、煽ってなんかいないって、今回ばかりは全面的に否定はできない。

変な性癖の持ち主だと誤解を招いちゃうようなさっきのセリフはどこかズレていたけど、静也さんになら、どんなことをされてもいい。

そう思っているのは本当だから。


「後悔なんか、しません」


ベッドで仰向けになっている私は、真上にある彼の顔を見つめて、静かに語りかける。


「さっき静也さん、ここへ来た理由はキスマークのことを会社で追求し損ねたから、って言ってましたけど……それは、嘘だと思うんです」


半分は本当なのかもしれないけれど、ここへきてすぐに私の肩にもたれていた無防備な彼は、キスマークのことを考えている様子はなかった。

あれは、お父様のことに少し安堵して、けれど拭いきれない不安とも戦わなきゃいけない彼の、精いっぱいの甘えだったんじゃないかな。