課に戻ると、他愛のない話をしながら自分たちのデスクのある部屋の中央付近に向かっていた私と上倉。

その途中で、私のデスクの上に異変が起きていることに気づき、私たちは立ち止った。


「うっわー……ひで」


背後で上倉がそう呟く声がする。

……うん、私もそう思う。ひでー、しか言いようがないなこれは。

私の机の上にある書類、文房具、パソコンのキーボードが、なぜか黄金色の液体にまみれている。

液体って言うか……このとろみ加減は、もしかして蜂蜜?


「……ハチミツ王子に溺愛される、芹沢美都」


そのとき、どこからか聞こえてきた、悪意のある女子社員の声。

それにつられるようにして、あちこちからクスクス笑う声も聞こえた。

は、……腹立つ。

アンタたち、お局がいなくなってせいせいするんじゃないの!?

いなくなるならいなくなるで、この仕打ち……

あーもー……コレ、どうやって掃除すればいいのよ。

犯人はだいたい見当がつくけどいちいち文句を言う気力がなく、無表情で雑巾を取りに行こうと踵を返した瞬間。


「……若名(わかな)、芹沢さんに謝れよ」


上倉の鋭い声がして、私は思わず振り返った。

それは、上倉が珍しく怒っているからではなくて……若名さんという人物が、私が思っていた犯人と違うからだ。

私の席のふたつ隣のデスクで仕事をする若名さんは、上倉の一個下の後輩。

いつも大人しくきちんと仕事していて、休憩室で悪口に花を咲かせるグループにも属していない。

私にとっては上倉と同じくらい、信頼できる後輩だったんだけど……