言葉を失う私に、静也さんは力強く言い聞かせる。


「大丈夫です。きっと。……美都も、そう信じていて」


……そう、だよね、弱気になったらダメ。
彼のことを支えたいと思っているのに、私が情けない顔をしてどうするの。


「わかりました。行ってらっしゃい」


短く頷いた彼が社長室を出て行くと、気持ちを切り替えるようにふうと息をついてから、私も社長室を出た。





秘書課に戻ると不安な気持ちをごまかすように仕事に打ち込み、定時を一時間ほど過ぎた頃、とりあえず自分のやるべきことは終わった。
社長からの連絡は、まだない。

心配を抱えたままデスクでスマホをじっと眺めていた私に、深見さんが近づいてきて言う。


「今日はもう帰って構いませんよ。ただ、もしも社長から会社に連絡があった場合は芹沢さんにもすぐに電話しますので、携帯は常に近くに置いていてください」

「わかりました。……お先に失礼します」


ビルを出ると、六時を過ぎていると言うのに辺りはまだ明るくて、暑さも健在。

冷房に慣れていた身体が一気に汗を噴き、ブラウスが肌に貼り付いた。

早く家に帰って、シャワー浴びよう。でも、電話がかかってくるかもしれないから、スマホはお風呂場まで持って行かなきゃ。

もちろん、かかって来ないのが一番いいんだけど……連絡を待つしかない立場って、すごく心細いな……。

私はスマホを握りしめたまま、とぼとぼと帰路についた。