一瞬で頭をフル回転させても、うまい言い訳が思いつきそうになくて、言葉に詰まっていたその時――。

静也さんのデスクの上で彼のスマホが音を立て、私はびくっと肩を震わせる。

静也さんは一度ため息をついてから私から離れると、スマホに手を伸ばす。

そして画面を確認するなり、彼の顔色が変わった。

素早くスマホをタップして耳に当てた静也さんは、神妙な面持ちで電話の相手に尋ねる。


「もしもし。どうしました?」


その切羽詰まった様子から、なんの電話なんだろうと胸がざわつく。

けれど、静也さんは短い返答を繰り返すだけで、会話の内容は予想がつかなかった。


「……わかりました。これから向かいます」


そんな言葉を最後に通話を終わらせた彼は、少しの間うつむき何かを考えた後で、私に向き直る。


「僕は出かけます。おそらく、今日は戻れないでしょうから、留守番を頼みます」


急に出かけるだなんて、どうしたんだろう。

今日は会議も接待の予定もないし、スケジュール的には特に問題ないけど……。


「承知しました。……でも、どちらへ?」


忙しく外出の準備を始める静也さんの背中に問いかけると、少しだけこちらを振り向いた彼が、抑えめのトーンで言った。


「父の容体が、急変したそうです。もしものときは、連絡を入れます」

「……! お父様が……」


……そんな。百周年記念式典を間近に控えたこのタイミングで、だなんて。