悪戯っぽく口角を上げた彼に、思わずふっと笑みが漏れた。

……そっか。それが、上倉なりの答えなんだね。

偉そうに許可を出す権利なんて私にはないけど、一生懸命前に進もうとしてる上倉の気持ちは、ちゃんと受け止めたい。


「うん……女々しくなんてないよ、ありがとう。……でも、新しい恋を見つけたら、教えてね。その彼女に、上倉の仕事ぶりをこっそり伝えるから」


会話が深刻になりすぎないよう、わざと先輩風を吹かせると、上倉は大げさに慌てる。


「それはやめてください! ソッコーで振られますから! ……美都さん、俺に新しい恋して欲しいのかそうじゃないのかどっちなんですか」

「あはは、そっか。もちろん、新しい恋を応援するよ」

「やっぱそっちか……切ねぇ」


上倉はがっくり項垂れてから、ふいにじろっとこちらを睨んだ。

そして腕組みをしながら、口を尖らせて負け惜しみのように話す。


「笑ってられるのも今のうちですよ美都さん。これから、そのキスマークのこと社長に追及されるんですから」


はっ……!

ピシッと音がしたかのごとく、一瞬にして笑顔が固まり、手のひらで胸元をさする。


「蚊に刺されたとか言って、逃げられないかな」

「そりゃ無理でしょ、赤みの種類が違うし。つか、嘘ついたら余計に怖い制裁が待ってそうじゃね?」

「いやぁぁ! 縁起でもないこと言わないでー!」


最近の彼はめっきり優しくなったとはいえ、こんなもの見られたら一瞬で瞳の温度がなくなるのが容易に想像できる。

そして恐ろしい制裁……は、想像したくない。

とりあえず秘書課に戻ったら、涼子さんたちに、濃いめのコンシーラー持ってないか聞いてみよう……。