本当の意味で静也さんと結ばれてから、受け身の秘書を卒業した私は、ときどき失敗して落ち込むこともあるけれど、なんとか社長秘書らしくなってきた。

社内の各部署にも顔が利くようになったし、接待をこなすごとに得意先にも顔と名前を覚えてもらえて、可愛がってくれる人もいる。

前にも思ったけれど、秘書の仕事は庶務課でしてきた仕事に通じるものがあるし、私、自分が思うよりマネジメント的な仕事って好きみたい。

そんな風に気付くと余計に仕事は楽しくなったし、何より静也さんの一番近くで、彼の役に立てていることが嬉しかった。


慌ただしい日々を過ごして、とうとう百周年記念式典の行われる七月に入ったある日。

午前中に庶務課に用のあった私は、そこから帰る途中で、休憩室から出てきた上倉と鉢合わせた。


「「あ」」


ふたりそろって短く声を上げたものの、それに続く言葉が出なくて私は視線を泳がせた。

……逃げよう。私は小さく会釈をして、彼の脇をすり抜けようとしたのだけれど。


「待ってよ」


すれ違いざまに、上倉が私を呼び止めた。