……そういえば。さっきは社長室独特の雰囲気と社長の王子オーラに圧倒されて、上倉をはじめとする庶務課でお世話になった人たちと離れるってことまでちゃんと考えていなかったな。

一部の後輩たちに嫌われていたとはいえ、六年もお世話になった部署を離れるのは、やっぱり寂しいものがある。


「……芹沢さん、今日の仕事のあとはヒマ?」

「え? う、ん……大して引継ぎすることもないし、時間通り終わったらあとは家に帰るだけだけど」

「じゃー、今日やっちゃいましょっか?」


やるって……送別会を?


「こんな急にじゃ誰も集まらないんじゃない?」


苦笑しながら上倉を見上げると、彼は人懐っこい笑みを浮かべ、首を傾げてこう言った。


「……ダメ? 俺と二人じゃ」


……わ、なんか可愛いんですけど。

上倉って、仕事中もそうだけど、人に甘えるのが本当に上手い子なんだよね。

それに、私が庶務課を離れると知って、“二人で飲みたい”と思ってくれてるその気持ちを無下にはできない。


「……あとで、先輩たちとか上司込みの会もちゃんと計画してくれるなら」

「りょーかい! じゃ、今夜の店あとで予約しときますね」

「うん……ありがと」


……どうやら機嫌が直ったみたい。よかった。

声のトーンがすっかり明るくなった上倉にホッとしたところで、二人そろって庶務課のオフィスに向かった。