忙しさにかまけて、会社の健康診断で出た“要精密検査”の文字を無視していたら、いつしか仕事に支障が出るほど体調が芳しくなくなり、末期の大腸癌だとわかったそうだ。

これからは、今まで自分を支えてくれた母との時間を大切にしながら、延命治療は行わずに、穏やかな時間を過ごしたい――。

そんな父の意向を母も僕も尊重することにし、父は緩和ケア病棟のある病院に入院していった。

家族と、それから秘書室の長、深見以外には、詳しい病名等は伏せて――。


だから、役員たちは父がいずれ戻って来るものと思っていて、僕に対してもどこか一歩引いた態度。

“コイツはかりそめの社長であろう”という考えが、わかりやすく透けて見えた。

しかし、真実はそうではない。

終わる気配のない父の入院生活と、精力的に社長業務を遂行していく僕を見て、彼らはなんとなく状況を察するようになった。

同時に、僕に対しての風当たりも強くなり、父がどれだけ彼らに信頼されていたのかがわかったが、最初の頃は落ち込んだ。

それで、一度そのことを病床の父に相談したのだ。

幼い頃こそ父に対して複雑な感情を持っていたが、大人になってからは、彼の教えがどれだけ自分にとって役立つものだったか思い知らされ、感謝の気持ちを抱くようになっていたから。

……もっとも、許嫁の件に関しては例外だが。