――初めて美都に出会ったあの時、僕は小学六年生だった。

僕はその歳で、自分は親の敷いたレールの上を走るしかないのだと悟っていて、子供らしく、自由に夢を抱いたりすることを諦めていた。

しかし……結婚まで強制させられることだけは、どうしても認めたくなかった。

両親は、僕が生まれてからも恋人同士のようにデートに出かけることもあるくらい仲睦まじかったから、僕の“夫婦”に対する理想は自然と彼らのような関係。

そしてそれは、好きな人と結婚しなければ叶わないだろうと、子供ながらに予想していたのだ。

……それなのに、父の友人の娘、そして家柄も申し分ないというだけの理由で引き合わされた、許嫁――蜂谷華乃。

五つ年下の彼女は見た目こそ整っていたが、いくつか言葉を交わすうちに、僕は彼女とは絶対結婚したくないと、強く思うようになっていた。


『パパがね、お夕食のときママに言ってたの。“静也くんとうちの華乃が結婚したら、華乃は一生遊んで暮らせるなぁ”って。私、だからうれしいの』

『赤ちゃんが生まれたら、華乃に似ても静也さんに似ても、絶対可愛くなるよね。ふふ、楽しみだなぁ』


彼女はまだ小学一年生だったはずだが、大人の話に聞き耳を立てていることが多いらしく、妙に大人びて世間を知っていて、それが薄気味悪かった。