エントランスホールを足早に突っ切り、それからエレベーターに乗りこんだ私たち。

その扉がゆっくりと閉まって上昇が始まると、社長はつないでいた手を離して、私を壁の方に追い詰めた。

ドキン、と跳ねた胸の音は、創希さんのときと、同じようで違う。

心の深いところで大きな打楽器を鳴らされたように、その振動が波になって全身に広がっていく。

社長は私の顔の横にトン、と優しく片手をつくと、私の耳元で、ささやくように尋ねる。


「創希に優しくされて、その気になりましたか?」


吐息が耳にかかって、かぁぁっと全身が火照っていく。

けれど彼を真っ直ぐに見つめて、思いきり首を横に振った。

社長は少し身体を離して満足そうに微笑んだかと思ったら、私の顎をくい、と引き上げてとんでもないことを言い出す。


「そうですか。僕に虐げられている方が、幸せ、と」


そ、そういう意味じゃない~! ……けど、百パーセント間違いでもない……かもしれない。


「今日……創希さんといる間もずっと……社長のこと、考えたんです」


微かな声で白状をはじめた私に、社長が浮かべていた笑みを消して、真面目な顔になる。

……デートの許可が出たときから、どうしてか憂鬱で。

創希さんに親密そうな行動を取られる度に、こんなところを社長に見られたらどう思われるのかなって、不安になった。