「別に。ただ、最後に美都ちゃんの笑顔見たら、我慢できなくなったってだけ。……お前はさ、見たことあるの? 美都ちゃんの、心からの笑顔」


未だ呆然としたままの私は、二人の会話に黙って耳を傾ける。


「……創希には関係ありません」

「いや、あるね。お前は泣かせることしかできないから、俺に嫉妬してるんだ。……今も昔も」


嫉妬……? いつも冷静な社長には似合わない言葉だ。それに、今も昔も、ってどういう意味なんだろう。


「……いいから、早く美都を離してください」

「そう焦るなって。つーか、美都ちゃんって柔らかくていい匂いするから離したくないんだよね」


頭のてっぺんに、創希さんの鼻が当たって、彼が大きく息を吸い込むのが分かった。

ま、まさか髪の匂い嗅いでる……!? 今までの紳士的な彼はどこへ行っちゃったの?

っていうか、こんな姿、社長に見られたくない……!

やっと我に返った私が創輝さんの胸をぐっと押すのと、強い力で肩を掴まれて創希さんから引きはがされたのはほぼ同時だった。

私と創希さんの間にはいつの間にか社長が立っていて、彼は怒気をはらんだ声で言い放つ。


「美都は、僕のものです。……今も、昔も」

「女の子を“モノ”扱いするような奴と一緒にいて幸せになれるとは思えないけどね」

「……なんとでも言えばいい。美都、行きましょう」


私の手を取って、マンションのほうへスタスタと歩き出してしまう社長。

彼に引っ張られるようにして歩きながら創希さんのほうをちらりと振り返ると、彼はニコニコしながらこちらに手を振っていた。