「僕の差し出したお菓子を口にするなり、それまで泣いていたきみがパッと笑顔になったんです。それは本当に、花が咲いたかのようにきれいで、可愛らしくて」
あ。それ……覚えてる。王子様がくれたお菓子。確かあれは、レモンケーキだった。
私、その美味しさに、思わず泣くのをやめたんだっけ。
でも……そういえば、私はそもそもなんで泣いていたんだろう?
「……あの……私、どうして泣いていたんでしょう? パーティの楽しい雰囲気や社長のことは覚えているんですけど、そこだけが思い出せなくて」
「ああ、それなら……」
向かい側のソファに座っていた彼が、突然立ち上がって私の隣に腰を下ろした。
香り高い紅茶に控え目な甘さが加わったような、気品のある香りがふわりと鼻をくすぐる。
それだけでも心臓が飛び出しそうなのに、彼は至近距離で私を見つめると、私の左頬にそっと触れて。
「ココを……蜂に刺されたんです。花の多い庭でしたからね」
「は、蜂に……?」
ここ、この距離感、やばい……!
過去を思い出そうにも、頭がしっかり動いてくれないよ……!
「……でも、跡が残らなかったようで何よりです」
そんな言葉とともに優しく微笑まれて、私はもうノックアウト寸前。
目の前の王子様に視線も心も奪われて、高鳴る心臓の音だけが、耳の奥に響いた。
「あの日、僕はきみに恋をしました。だから、トパーズを壊した代償は、一生僕の側にいること。
――――いいですか?」
優しげなのに、どこか有無を言わさない力強い眼差しに負けて、私はあっけなく首を縦に振ってしまった。
……私が昨日トパーズを壊したのも、きっと運命に導かれてのことだったんだ。
二十八年間、私に相手ができなかったのも、今日のこの日のため――。
そう思い込んでしまうくらいの引力が彼にはあって、初恋の時よりもずっと大きなときめきを覚えた胸は、いつまでもドキドキが鳴りやまなかった。