私のマンションの前に到着すると、創希さんはハザードを出して車を停め、スマホで電話をかけ始める。

相手はもちろん東郷社長だ。


「あ、静也? 俺、創希だけど」


助手席に座ったまま、私は耳にスマホを当てる創希さんをじっと見つめ続ける。


「今日、華乃ちゃんに美都ちゃんを紹介してもらったよ。それで、日曜日に彼女のこと借りたいんだけど、いい? もちろん、デート目的で」


デート目的……そう聞いて、社長はなんて返すだろう。

耳を澄ませても、社長の言葉は聞こえない。それをもどかしく思いながら、成り行きを見守っていると。


「ふーん、余裕だね。じゃあ遠慮なく、彼女とデートさせてもらうから」


その会話……社長はデートのこと、反対しなかった。そういうこと、だよね……。

ズキ、と胸が小さく痛み、私はまた自己嫌悪に陥る。

反応を窺うような真似をしておいて、いざデートの許可が下りると、ショックを受けているなんて、すごく勝手じゃない? 私……。


「美都ちゃん」

「は、はい……!」


通話を終え、今まで前方を向いていた創希さんの視線がこちらに向けられた。

緊張して身を硬くする私にふっと微笑んだ彼は、私の頭の上に、ぽんと手を置く。


「そんなにガチガチにならないでいいよ。いきなり取って食おうとかそんなこと思ってないから。でも、楽しい時間にしたいな、とは思う。日曜日、十時にココでいいかな」


優しいけれど強引な創希さんに、私は頷くだけで精一杯。

あっという間に取りつけられたデートの約束に現実味を感じられないまま車を降り、夜の街に消えていく彼の車を見送った。